團藤重光氏は東大名誉教授にして元最高裁判事である。我々の年代以前の法律家は(多分その後の法律家もしばらくは)、この團藤教授の刑法の教科書(選択科目で刑事訴訟法を選択した人は刑事訴訟法の教科書も)を勉強して司法試験に受かった者が殆どであり、その刑法・刑事訴訟法学者としての威光は赫々たるものがあった。御年93歳になられるとのことである。
この團藤刑法、というより團藤名誉教授の法哲学ないし法思想を、法学門外漢の伊東乾東大准教授を聞き手として、対談形式で語ろうとする企画の本である。企画自体は大変良いと思うので大いに期待して読んだのだが、対談自体は、伊藤准教授が語りかける團藤思想理解を、團藤名誉教授が「うんうん、その通り」といった感じの相槌で応じる場面が多く、正直なところ、少し期待はずれだった。対談、要するに話し言葉である以上、もう少し口語的な砕けた表現を期待したし(よく読めば理解できなくはないが、ポストモダンとしての團藤思想という辺り少々気疲れがする)、日本刑法(多分世界的にみても)の重鎮中の重鎮の肉声をもっともっと聞きたかった気がする(もちろん、肉声が現れている面もあるのだが、もっとという意味である)。
この本で、團藤教授が、確信的で絶対的な死刑廃止論者であること、裁判員制度に極めて批判的であること等を初めて知った。
三島由紀夫が東大法学部で團藤教授の教え子であったことは知っていたが、この本にもそういう箇所が出てくる。
「團藤 三島の小説には他にも僕の理論が出てきますよ。『仮面の告白』。あれは僕の刑事訴訟法理論を文学化したものです。三島は僕の考え方をいちばんよく理解した学生の一人でした。その年度に教えた刑事訴訟法のいい答案が三通だけあった、その一つが平岡(=三島由紀夫の本名)のものだったけれど(後略)」
「仮面の告白」は高校生の頃に読んだ記憶はあるが、それが團藤刑事訴訟法の文学化かどうかは全くわからない(刑事訴訟法は勉強していないからという面もあるが)。
團藤思想の口語化を期待して読むと外れるが、陽明学に基礎を置くとされる團藤思想の世界的歴史的位置付けという意味では良くわかる。