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2007.09.06(木)

報道されない重大事

斉藤貴男

お恥ずかしい話だが、私が著者であられる斎藤氏の著書に注目するようになったのは比較的最近のことである。そして、その最近の印象では斎藤氏は大変硬派の方でガチガチのサヨク(左翼)ないし人権派であるかの様に思っていた。ところが、本書で昔は週刊文春などに記事を書いておられたと知りビックリした。昔の週刊文春は社会党・共産党などの当時「革新」と言われていた政治勢力を批判したり揶揄したりするイチャモン的な記事を売りにする右派の週刊誌と見られていたからである(それは多分今もそれほどは変わらない)。

ということは、つまり時代の座標軸がドンドン右にズレて来て、昔、右だった人でさえ今や左翼的な立ち位置に位置づけられざるを得ないということなのだろう。確かに自民党副総裁で総理・総裁に推されても固辞された故後藤田正晴氏でさえ良心的な政治家として評価せざるを得ないと私自身が最近は考え出しているのだから、さもありなんというところか。怖ろしい話である。

私から見れば斉藤氏の記事は極めて真っ当、どこにも共産党だ社民党だという少数左派の議論はない。しかし、時代は、この意見が少数左派にならざるを得ないところまで右傾化しているということなのだ。

本書は小泉政権時代の書であるが、斉藤氏は本文の中で殆ど毎章(多分雑誌連載時は毎回)怒り狂っておられる。そして、その怒りは至極真っ当であるから、逆に今の時代なら益々怒り狂るっておられるだろうと思う。私自身でさえそうなのだから。

安部首相は私と同じ歳であるが、改憲を志向し集団的自衛権の検討を指示する等、とても許せない政策を執ろうとしている。斉藤氏が本書の中で指摘しておられるが、自分と自分の一族は絶対戦場に派遣されない地位にいることがわかっていて、戦争準備政策を推進するのは卑怯極まりない。次期首相の可能性が取り沙汰される麻生氏にしても同じである。いずれにしても、最近の権力中枢は見渡せば吐き気がするほど2代目3代目の世襲坊ちゃん嬢ちゃんばかりであり(こういう連中に北朝鮮を批判する資格はない)、戦地で使い捨てにされる一般庶民と全く無縁の存在ばかりである。危険この上ないし、権力中枢にいる人間達は本当に卑怯だと思う。どうしても戦争推進の政策を執りたいが政策決定権者として中央に留まらざるを得ない等という卑怯・卑劣な論法をとるのなら、自分の実の息子・実の娘を一兵卒として最前線に必ず差し出す約束を国民の前ですべきである(ブッシュ現大統領が父であるパパ・ブッシュ大統領の七光りで最前線派遣を免れたという話は本当なのか)。

どうして日本はこうなってしまったのか。本書を読んで、今一度ご自分の立ち位置を洗い直してみられることをお勧めする。


斉藤貴男<br />ちくま文庫
ちくま文庫
840円+税