地下鉄で、私の尊敬する先輩の女性弁護士と偶々一緒になった。必ずしもその先輩が女性だったからという訳でもなかったのだが、つい「今こんな本を読んでるんですよ」とお見せしたのが本書だった。先輩は明るく微笑むと「面白いでしょ、この方達の本。私も大分読んだわ」と仰ったのだが、しかし、そのすぐ後に「でも、読んで私はフェミニストじゃないなと思ったわ」と付け加えられて、少々面食らった。「え、そうなんですか。ボクにはフェミニズム自体が良くわからないけど、…」としか答えることが出来ず、いずれにしても次の祇園駅で降りて博多署に接見に行かなければならなかったので、それ以上に会話の深まりのないまま、終わってしまった。
その先輩弁護士が女性の権利実現に頑張っておられる姿を目の当たりにしていたので、「私はフェミニストじゃない」という言葉自体には少なからずショックだった。ということは、男女同権・女性の権利実現とフェミニズムは必ずしも同義ではないのか。
そして、この本はお二人の対談集ないし対論集であり、関西生まれのお二人の丁々発止は漫才的でもあり面白いのだが、実はフェミニズム自体の解説には必ずしもなっていない。何やらフェミニズム自体は自明の所与の前提とされているかの様であり、「そもフェミニズムとは…」という定義の解説が存在しないから、私の様な人間には理解が追いついて行かない部分が多々ある。しかもフェミニズムは論者の数だけあるという発言まであって、益々私にはわからなくなって来る。しかし、論じられているうちに朧げながら何となく見えてくる部分はないではない。
先日のニュースで、何の動物だったかメスだけで子孫をつくるバイオ技術の実験に成功したというのがあった。昔読んだSFで、メスだけの生殖技術が開発されオスつまり男性は絶滅させられるという怖ろしい物語があったが、それが現実化される可能性が出て来たわけである。その技術がフェミニズムの極地なのかもしれない。
いずれにしてもお二人の過激な発言が飛び交い大変おもしろく、また解説が遙洋子さんだったので、同氏の著書である「東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ」という大分昔の単行本を読み返してみたらやはり改めて面白かった(おなじちくま文庫で出ている筈である)。