ミステリーというよりはバイオレンス編2題という感じか。実をいうと両方とも余り私の趣味ではないのだが、幾ら私のホームページの書評欄だといっても余りに私の好みに偏り過ぎてもいけないかなという気持ちで取り上げる。好みでない理由は、両書ともやたら暴力的なのだ。
「ブラック・ドッグ」はイギリス元情報部員が主人公なので、いつもなら私の好みの話である筈なのだが、まぁやたらと人が死ぬ、というより殺される。弁護士のくせに超スナイパーなんて敵役が出て来るので、まぁ面白いっちゃ面白いのだが、どちらかというと劇画チックである。私はB級アクション映画がやたら好きで、もう半年ほど前になるのか新しいボンド役で公開された「007 カジノロワイヤル」のド派手なアクション楽しんだが、そういう傾向の小説である。しかし、そんな内容のものを、わざわざ活字で読む必要はない。やはり、何かジョン・ル・カレとかレン・デイトンとか主人公の性格描写や組織内の軋轢とか陰影に富んだスパイ小説じゃないとどうしても面白くないのだ。そういう部分もなくはないのだが、活字で読むB級アクション映画というのが、本書の感想。何のかのと難癖つけても結局最後まで読み通したのだから、まぁ面白かったと言っておこう(ちなみに先日は、「ダイ・ハード4.0」を観て楽しんだ。私の娯楽はこういう趣味である。似た傾向が続き過ぎるので映画評は書かない)。
「果てしなき渇き」は、ちょっとこの主人公について行けない。大体「このミス」大賞(「このミステリーが面白い」大賞)は、今まで読んだものは殆ど面白く大賞作であることに納得した。しかし、本書は大賞の選者の中にも「随所に見られる破壊的なエネルギーの過剰な迸りも好ましく、個人的には好きなタイプの作品ではないにもかかわらず(こんな小説読みたくないと何度思ったことか)これに最高点をつけた」と評した方がおられたそうである。展開していく中で、本当に「こんな小説読みたくない」と感じ出す。大体が元刑事が覚せい剤を自ら注射してその力を借りる形で行方不明の娘を探し出そうとする物語である。元刑事、現在警備員の主人公が最初に出くわす殺害現場の凄惨な描写からして、ヤベェこの本買うんじゃなかったかなと思い始め、本の3分の1辺りでそれが確信に変わる。にも拘わらず、放り出せない。帯に「狂おしく暴走する物語のトライブ感がたまらない」と池上冬樹氏の評が引用されているが、確かに引きずり込まれるのだ。ただ、読み終わって爽快感が残るかと言えば少なくとも私は逆だった。多分この著者の小説は、二度と買わないだろう。怖いものみたさというか「暴走感」を味わってみられたい方にはお勧めだが。