9月29日の朝日新聞によると、「司法修習生、107人が『落第』過去10年間で最多」という見出しのもと、「法律家になるための最後の関門にあたる司法研修所の『卒業試験』で、受験者の7.2%の107人が合格できずに『落第』するという異例の事態が起きた。最高裁が28日発表した。記録が残るここ10年間では最多で、落第者数は昨年の約3.5倍。最高裁は『合否基準は変えていない』としているが、今回は司法試験合格者が初めて1500人規模に増えた期の試験。法曹人口増を図るための司法試験合格者数の増大が一因とみられる。今回は、主に04年の司法試験に合格した59期の1493人が受験したが、107人が合格できなかった。うち10人が完全に不合格で、97人は合否留保で追試を受ける。前回の58期の落第者は31人(落第率2.5%)で完全不合格者は1人。最終的には2人が不合格になった。57期は落第者46人(同3.9%)で完全不合格者は3人、最終不合格者は計5人だった。58、57期は司法試験合格者数は1200人規模。司法修習生の数が700人余だった99年の52期までの落第者は5人以下で推移していた。」
という本文が添えられている。おいおい、という感じがする。
「卒業試験」と記事には表現しているが、私達を含め伝統的に司法研修所の卒業試験のことを「二回試験」と呼んでいた。法律家になるための第一関門が司法試験で、第二関門が司法研修所の卒業試験で、だから卒業試験は2回目の試験という意味なのだろうが、先輩を通じて「二回試験」という呼称が呼び習わされて来ていたのである。そして我々の時代は、二回試験での不合格者は0名つまり全員合格、もしくはどんなに多くても一桁台の前半というのが常識だった。不合格者を増やすと、司法研修所が司法修習生の締め付けを意図しているのだという批判が出て、寧ろ不合格にするのは裁判官任官拒否と同様の「政治的な意図に基づく判断」だとまで言われていた。
ところが、この記事によると不合格者の数が二桁ちがう。私達の頃のように、政治的な意図と指摘するには数が多すぎるとは言えるだろう。しかし、では逆に考えると、「何で1500人も合格させたの?100人以上も落第させて、まともに教育する能力がないなら最初からそんな数、合格させなければ良かったんじゃないの?不合格者の2年間(1年半かな?)をどうやって償うの?『あんたは法律家にはなれないよ。それをはっきりしただけさ!』」という批判は当然あるだろう。新司法試験では、法科大学院修了生しか受験できないので、研修所の卒業試験で転ぶ様な人間は出て来る可能性は少ないだろうが、いずれにしても、数的には多過ぎるとは思う。思うよね?。ね、みんな?…って、思わないかぁ…。
9月21日、新司法試験の合格者が発表された。合格率48%、合格者数1,009人という数字だけ見ても、我々の受験時代(合格率2%弱、合格者数500人前後)から大きく異なっているが、内容も大きく違う。
我々の時代は、一次試験を経れば(大学の教養課程修了者は免除だから大抵の大学生は受験可能)、法学部出身者に限らず誰でも二次試験を受験できた。だから、せっかく法学部に入ったのだから一度くらいは受けてみようかという様な冷やかし的な受験も含めて受験者数は全国で2万数千人に上った。その結果、合格率が極端に低かったのであるが、冷やかし受験を差し引いても確かに合格率は相当低かっただろう。
ところが、新司法試験は法科大学院(通称ロースクール)修了者でなければ受験できない(尤も経過措置として旧型の司法試験も5年は実施されるのだそうである)。今年の受験者は2,091人だという。その結果、数字だけ見れば旧司法試験と段違いということになる。しかし、今年の不合格者は来年も受験できる。そして、今年の受験者は法科大学院2年制の修了者で、来年は3年制の修了者も受験することになる。そうなると、合格率はもっと下がるだろう。
元々新司法試験はロースクールさえ修了すれば大半が法律家になれるようにする、という触れ込みだった。6年制の大学医学部を卒業して受験すれば合格率が8割だか9割だかの医師の国家試験と同じ様にする筈だったのである。しかし、どうやら新司法試験が落ち着く先の最終的な合格率は5〜6人に1人くらいの割合になりそうだと聞く。しかも受験回数が3回に制限されているそうである。そうなると、ロースクールは修了したが最終的には法律家になれない人達が数年後には毎年2、3千人は出てくるのではないか。こういう人達の受け皿は用意されているのだろうか。企業が法務部の様なものを作ってロースクール修了者を採用するというのが真っ先に頭に浮かぶが、多分、弁護士大量製造(毎年三千人)で弁護士の就職難時代に入れば、弁護士も企業法務という形で企業に就職する道を選ぶだろうし、法務部も試験に受かって弁護士資格を持つ者の方を採用するだろうからロースクールを修了したというだけで必ず採用してくれるとは限らない。結局ロースクールで学んだことを生かせる職種ということになれば公務員しか残らないだろうが、公務員試験には大抵年齢制限があるので、この道も余り広くはないと思われる。
高い学費を2〜3年も払って法律を猛勉強し、しかし法律家になれない、しかも就職先もなく結局法律とは余り関係ないところへ就職するという人達が増えるのではないか。法律を学ぶ法学を学ぶというのは「リーガルマインド」を学ぶことなので、法律職以外でもロースクール修了の実績は社会で役に立つ、とは言いながらも本人の気持ちがそれで済むかというと、どうだろうか。
私も最終的には司法試験に受かったからいい様なものの、もう少しで人生を棒に振る瀬戸際だった様な気がする。何かロースクール卒業生という人的資源を生かせるエリアというかフィールドというか、そういうものをいずれ考えて行かないといけないのではないかと思う。