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福岡市弁護士甲能ホーム日記インデックス2010.6.5(土):司法修習費用貸与制反対

日記インデックス

2010.6.5(土)

司法修習費用貸与制反対

弁護士会が憲法記念日などに無料法律相談会のイベントを行なう。そのときの法律相談担当弁護士は弁護士会員全員に参加を募集し、応募してきた弁護士に相談担当を割り振る。一応、相談日当は弁護士会から出るが、相談人数からすれば寧ろボランティアの色彩が強い。

私はこの様な募集に比較的応じて来たし時には応募人数が足りないから頼むと弁護士会から言われて、結構無料法律相談を担当して来た。ところが、最近、応募弁護士多数のため今回はあなたには相談担当をご遠慮願うことになりましたという通知が、立て続けに2回届いた。私は弁護士歴20年になるが、初めての経験である。察するところ、応募者多数のため、経験年数の若い弁護士から順に仕事を割り振って行った結果、私くらいの経験年数の者は振るい落とされたのだろうと推察している。弁護士増加の余波がこういう形で現れているのだろう。

弁護士が増え続けている。司法試験合格者を増やしたからである。増加率に応じて、裁判官・検察官も増やせばいいのだが、余り増やさないので結局弁護士のみ激増という形になり、新米弁護士は就職先にあぶれてソクドク(即時独立)や宅弁(自宅で自分で弁護士を開業する)という現象が出ている。司法試験合格者を激増させる前は、弁護士は一旦どこかの事務所に就職してイソ弁(居候弁護士)となり、何年かかけて仕事を覚えて独立するか雇ってくれた弁護士と共同経営者になるかするというのが一般的なルートだったが、ソクドク・宅弁では先輩について仕事を覚える機会がないから、これは大変である。司法修習を受けているといっても実務と研修所の講義との格差は大きいから、新人は大変である。

しかも、この将来の新人弁護士に今回また苛酷な条件が課されるようになった。修習生給与の給費制から貸与制への変更である。これまでは司法修習生は国家公務員に準じる給与が支給されて生活の心配なく修習の勉強が出来た。ところが、これからはこの給与は支給ではなく貸与ということになり、弁護士になってから返済しなければならないこととなったのである。約300万円ほどらしい。これでは、就職先はないわ借金は抱えるわで新人弁護士の窮状は益々深まる。

そもそも弁護士は、「基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とする」と弁護士法に高らかに宣言されているように、日本国憲法下で人権と社会正義の実現を使命とする公益的性格の仕事だから、国費で養成するという建前だった。だから給費制だったのである。それが今や貸与である。収入が挙げられるようになったら返せという話で、受益者負担という形になった。乱暴な言い方をすれば、弁護士は自前の金で弁護士になれ、だから公益なんか忘れて私利私欲に走っても構わんという話と言われても仕方がない。

だから、とんでもないということで、今、弁護士会挙げて貸与制に反対しているが、見通しは厳しい。本欄の読者も弁護士の公共的使命に思いを致し、是非、貸与制に反対して頂きたい。