今回の日弁連会長選挙は、1回目の投票では当選者が出ず、2回目の投票でやっと当選者が決まった。争ったのは、いずれも東京弁護士会ご出身のお二人だが、お一人は派閥が推すいわゆる従来路線の主流派、もうお一人は無派閥の草の根応援団というところか。
1回目の投票では派閥推薦者が全国得票数で上回ったが、全国52ある弁護士会の3分の1以上の会で過半数を取らなければならないという条件を遠く満たさず、2回目の投票で、無派閥候補が総得票で逆転し、更に各地方単位会の過半数を殆ど制して当選した。1回目の投票で特徴的だったのは、派閥推薦者が総得票で上回ったとはいうものの、各単位会で見ると、地方は無派閥候補が制し、東京・大阪という派閥の強い地域で多数を獲得しそれが総得票の上位に貢献したということだ。2回目の選挙では、無派閥候補が大阪で逆転し、東京では派閥候補の票は1回目の投票ほどは取れず、その結果、全国の総得票でも無派閥候補が逆転した。
これまでの日弁連会長選挙は、東京3会(東京弁護士会・第1東京弁護士会・第2東京弁護士会)と大阪弁護士会の派閥が主流派を構成して談合で候補を絞り、それに対して反主流派が闘いを挑むという構図で、主流派の牙城を崩せなかった。基本的に東京・大阪の持ち回りで日弁連会長が決まっていたのである。この場合、主流派というのは約10年前の法曹三者の基本合意に基づく司法改革を推進する考え方で、反主流派というのはこの司法改革路線を批判する立場だった。
ただ、今回の無派閥候補はいわゆる反主流派が候補を立てなかったために、主流派内の選挙のようにも見えるが、必ずしもそうではない。従来の主流派の司法改革路線は、弁護士増員論で、10年前当時合格者500人程度だった司法試験で、合格者を3000人にするという目標を立てた。この計画に沿って合格者は漸次増加し、現在2000人程度になっているが、その弊害が目につき始めた。
その弊害とは、司法試験合格後の司法研修所修了者の就職先が足りなくなったのである。弁護士はある種の徒弟制度的な面があって、ベテラン弁護士の事務所に雇われ弁護士(居候弁護士―略してイソ弁)として就職し、弁護士のスキルを磨いて、独立したりベテラン弁護士とパートナーを組むというルートが一般的だったのだが、卒業修習生が多すぎて雇われ先が足りなくなってきたため、即独弁護士(いきなり独立して自分の事務所を持つ)やノキ弁(ベテラン弁護士に雇われる形ではなく給料なしで軒先だけ借りる)が出るに至っている。
弁護士の仕事は、法的知識があるだけでは足りず、弁護士法1条に書いてあるように「弁護士は基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」のであるから営業一辺倒でもいけないし、他方、霞を食って生きることもできないので、それなりの工夫・スキルが必要で、イソ弁ルートは、その工夫・スキルを伝達する業界の知恵だった訳である。それが司法修習生過剰で即独やノキ弁が出てきて、弁護士界の伝統が崩れかけて来たのである。
今回の選挙では、この大量合格者推進路線を「慎重に検討する」とする派閥候補と、「合格者を1500人程度にする」という無派閥候補者の対決という形になった。そして、大半の弁護士が後者に票を入れたのである。
もう一つ、無派閥候補が主張した政策は「司法修習生の給費制度の維持、貸与制度への変更反対」というものであった。従来の司法修習制度は、修習生活中は将来の職種(裁判官・検事・弁護士)が決まっていなくても国から給与が出ている。弁護士(イコール非公務員)であっても日本の統治原則である法の支配の担い手の一端だからである。しかし、この給与制を貸与制に変更しようとする動きがある。弁護士になったら修習中に支給された給与は返還するという貸与制とするのである。これでは、お金持ちの子供の弁護士以外の弁護士は出発時点から借金を抱えて仕事をしなければならない。加えてロースクール2〜3年間も奨学金で通学し司法試験に通ったのであれば、益々借金額が増えることになる。つまり、弁護士は借金を返還するために金儲け優先の仕事ぶりを事実上余儀なくされる訳である。これでは先に挙げた弁護士法1条の理想から懸け離れた弁護士になってしまう可能性が高まる。
私は地方単位会の人間であるから、弁護士になって以降、東京・大阪の日弁連会長持ち回りに苦々しい思いを持っていたせいもあって、今回は無派閥の候補に投票した。政策にも共感したからである。
ところが、マスコミにはこの「合格者1500人路線」は評判が悪いらしい。ギルド的発送だとか既得権益優先思想の表れだとか批判が多いとのことである。
しかし、弁護士を激増させること、弁護士を金儲け主義の弁護士一色に塗り上げてしまうことが我が国の法の支配という大原則を掘り崩すという視点が批判者には見えていない。
色々言いたいが長くなったので、次回に。