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福岡市弁護士甲能ホーム日記インデックス2015.3.21(土):日記「桂米朝師匠、死去」上方落語の巨星墜つ

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2015.3.21(土)

日記「桂米朝師匠、死去」上方落語の巨星墜つ

3月19日、桂米朝師匠がお亡くなりなった。

米朝師匠というと必ず思い出す落語がある。学生時代にラジオで聞いた「天狗何とか」という古典だった。当時、枝雀師匠も仁鶴師匠も好きだったが、この落語の語りを聞いて、米朝師匠が一辺で好きになった。

町人(八つぁんか熊さんとかいう名前だったと思う)が寝ている。夢を見ているらしく楽しそうな寝顔である。それを見て女房が起こす。「あんた、どないな夢みてたん?」町人「夢?夢なんか見てへんで」「見てたやろぉ楽しそうな顔してたがな」「いや見てへんで」「ええやないの勿体ぶらんと教えてぇな」「いや、そやから見てないて」「見てたがな」「見てない」「見てた。教えへんのか」という言い合いで、結局、夫婦げんかになる。

遂に女房が泣く喚くの騒ぎになって、そこへ町人の友達が仲裁に入る。「たかが夢ごときで」とその友達が何とか場を収めるのだが、その友達「で、どないな夢、見とったんや、嫁はんには言わへんさかいワイだけにこそ〜っと教えたり」「いや、そやから夢なんか見てないって」「そない言わんとワイとお前の仲やないか」「そやから見てないって」「何やワイにも教えられへん言うのんか」今度は友人どうしで喧嘩が始まる。

その騒ぎを聞きつけた町の世話役か大家かが仲裁に入る。「たかが夢ごときで」ということでまた世話役が場を収めるのだが、今度は世話役が夢に興味を持つ。「で、どないな夢、見とったんや」「いや、それが夢なんか見てませんねん」「そない言わんと皆には黙っとってやるさかい言うてみ」「そやから夢なんか見てません」「何やワシにも教えんちゅうのんか」今度は、ここで喧嘩である。

そこからとうとう奉行所にまで持ち込まれる。さすがはお奉行様「たかが夢ごときで争いごと等」と諫めて落着させる。ところが、お奉行様も同じ人間「で、その方いかなる夢を見ておったのじゃ。拙者にだけでも申してみよ。」「いや、それがお奉行様ワシは夢なんぞ見ておりませんです。」「だから秘密にしておいてやると申しておるではないか」「ほんまに見てませんねん」「何を〜っ拙者にさえ言わぬと申すか」

怒った奉行が町人に罰を加えようとするのを、今度は天狗様が町人を助け出す。「そちも災難じゃったのぉ。たかが夢ごときでこんな目に合わされて」「はぁ天狗様ほんまにおおきにありがとうさんでおます」ところが、今度は天狗が夢の内容に興味を示し、町人を問い詰める。「夢なんぞ見てません」という町人は、人間ではない天狗に追い詰められて万事休す。

と、ここで町人は眠りから起こされる。起こした女房が言う「あんた何の夢みてたんや」というところが落ち(推理小説ではないので落ちを明かしてもよかろう)

この落語で、米朝師匠は、町人・女房・世話役・奉行・天狗と個性の異なる登場人物を見事に演じ分ける。そして、それぞれの登場人物が地位に応じた威厳を保ち「たかが夢ごときで」と言う一方で、威厳の殻に亀裂が走り、つい夢の内容を聞きたくなる助平根性が現れる変化に思わず笑えてしまう。実に面白かった。

学生時代に聞いたのだから、もうン十年前で米朝師匠も油ののりきった時期である。合掌。