この間、私の書評欄のペースが落ちて来たと感じておられる方がいらっしゃるかも知れないが、実際は本を読むペース自体は以前と余り変わらない。ただ、読了したからといって必ずしも書評欄で「書評」としては採り上げて来なかった。それで今回は、この間に読んで来た本を、日記の中で寸評するという形で何冊か採り上げよう。
○「そこがいいんじゃない!みうらじゅんの映画批評大全1998~2005」みうらじゅん、洋泉社 1300円+税
:漫画家としてデビューされたが、イラストレーターからミュージシャンから幅広く活躍されている著者のB級映画礼讃の映画評を集めたもの。日本映画批評家大賞功労賞を2004年に受賞したと帯に謳ってある。一読して大変おもしろく映画への愛着が切々と伝わって来るし、その諧謔に満ちた文章とマンガも大したものだと思うのだが、R指定というべきかギャグにまぶされてはいるが些か青少年向けとはいいにくい絵や文章があるので、読んでみようかと思われる方はその覚悟で読んで頂きたい。
○「小説集 絵の中の物語」林望 集英社文庫1,100円+税
:実在の名画から発想された短編を集めた文庫。絵自体も日本画から西洋画から様々だが、小説の形式・語り口も様々で、そのバリエーションが楽しめる。
○「世界の日本人ジョーク集」早坂隆 中公新書ラクレ760円+税
:横浜出張の帰りの飛行機内で読了した本。書店では平積みになっており良く売れているらしいのだが、私自身はそれほど感心はしなかった。
○「99%の誘拐」岡嶋二人 講談社文庫695円+税
:1989年の吉川英治文学賞新人賞受賞作だそうである。たたみかける様な文体でグングン読ませる。ただ、この著書が書かれた時点では最先端のパソコン技術を駆使した形だったのだろうが、さすがに今はいささか古くなっている感は否めない。しかし、それでも十分たのしめる。
○「現代人の論語」呉智英 文春文庫505円+税
:高校の頃、あの読下し分のリズミカルな感覚で漢文は大好きだった。高校の教科書には当然「論語」が例文として出て来ていたのだが殆ど忘れていたし、何か儒教に対する偏見の様なものも私にはあって、「論語」それ自体を読んでみたいと思ったことはなかった。しかし、書店で手に取ったら何となく面白そうだったので読んでみたところ、孔子が私がイメージしていた様なお堅い聖人君子では必ずしもなかったことや、孔子自身や弟子たちの人間臭い姿が解説され大変親しみが持てた。ただ、だから原典に当たってみようとまでは思わなかったが。
○「感染」仙川環 小学館文庫552円+税
:第1回小学館文庫小説賞受賞作の医療サスペンスと帯に謳ってあったので、買い求めて読んでみた。病院内の人間模様などは、やはり現場を体験した著者の様な人でなければ書けないなと思ったが、なぜか「火曜サスペンス劇場」といった感想を持ってしまった。
○「論争格差社会」文春編集部編 文春新書750円+税
:現在問題になっている「格差社会」というものが本当にあるのかという観点から、17人の論者の論文や随想、対談などを集めたもの。現実は多様な視点から把握すべきであるという一般論はそのとおりではあるが、本書に登場する論者達の主張は賛同できない論も多いが、なるほどと思う論も多い。ただ、どちらかと言えば「格差」は以前からあったのだという傾向の主張の方が多く集められている気がする。いずれにしても「二極化社会も悪くない」という標題の渡辺昇一氏と日下部公人氏の対談は、私などは猛烈にムカつく。
○「影踏み」横山秀夫 祥伝社文庫638円+税
:私がファンである横山秀夫氏の短編連作集である。警察小説に新境地を開いたと評される横山氏だが、今回の主人公は泥棒である。ただいわゆるピカレスク・ロマンとは違う。いささかファンタジックな設定が施してあるのも横山氏の小説としては異色だろう。十分楽しめる。
○「手塚治虫=ストーリーマンガの起源」竹内一郎 講談社選書メチエ1600円+税
:サントリー学芸賞受賞という大変アカデミックな本である。手塚治虫論は山ほどあるが、本書は現時点の到達点ということが出来るのではないか。読み応えがある。