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福岡市弁護士甲能ホーム日記インデックス2008.12.14(日):「イソ弁」「ノキ弁」「タク弁」三題噺

日記インデックス

2008.12.14(日)

「イソ弁」「ノキ弁」「タク弁」三題噺

最高裁判所司法研修所の卒業試験(これを司法試験の次の2回目の国家資格試験という意味で「2回試験」と我々は呼ぶ)に何とか合格すると、やっと一人前の法律家の国家資格が得られる。この中から「裁判官」・「検察官(検事)」という国家公務員に任官する者と民間の「弁護士」になるものの法曹3ルートに分かれる。

新人弁護士の殆どは「イソ弁」と呼ばれる層になる(残りはいきなり自分の独立事務所)。先輩弁護士の事務所に雇われ「居候(イソーロー)」をして(だから略称「イソ弁」、対して雇い主の弁護士は「ボス弁」)実務の修行をし(言わば親方・弟子の徒弟制度)、やがて独立して自分の事務所をかまえるか、先輩事務所の弁護士と同格の共同経営者となるかのどちらかが大半である(前者が多い様な気がする)。

だから研修所の後期は「シューカツ」(就職活動)の時期となる。どこの事務所がイソ弁として雇ってくれるか内定を取るための活動である。当然ながら悲喜こもごもあるのだが、我々の時代というか、つい最近までイソ弁先・就職先は相手を選ばない限り黙っていても存在するという前提だった。その前提で、少しでも条件の良い事務所に就職しようというレベルの競争だったのである。

ところが、今はイソ弁先がないことも有り得るという前提となっているらしい。司法試験合格者大増員の結果である。つまり、イソ弁募集先≧イソ弁志望者数が我々の時代の大前提であったのだが、今やイソ弁募集先≦イソ弁志望者数という時代だそうである。

結果、イソ弁になれない新人弁護士が出てくる。と、どうなるか。

まず第一は就職浪人が思い浮かぶだろうが、弁護士が中途半端なのは、国家資格さえ取ってしまえば経験ゼロでも国家社会上一人前なので、浪人という外形になりにくいのである。つまり、とにかく弁護士登録さえしてしまえば、先輩弁護士の事務所に所属する必要はない。どういうことかというと、今までの自宅勉強部屋を事務所にして弁護士登録してしまえば、仕事が来ようが来まいが「弁護士先生」になれるのである。これを自宅を事務所にする「タク弁」と呼ぶ(住所・電話・ファックスさえ登録してしまえば格好は着く。打ち合わせは喫茶店でもかまわない訳だから)。

そして、中間形態が「ノキ弁」である。これは先輩弁護士の事務所の「軒先」を借りる弁護士ということになる。「イソ弁」は、先輩弁護士に雇い雇われという形で「有給」が前提である。先輩弁護士の仕事全体を居候として手伝う、その対価として給料を貰う、ということである。先輩弁護士の事務所を手伝うのと並行して自分単独の名前で仕事をしても良い事務所が多くその手数料は自分のものとか事務所に何割か入れる約束をする。ところが「ノキ弁」は無給。自分の仕事を獲得するのが目的で、先輩事務所からは給料は貰わないが事務所のスペースは貸して貰える。ノキ弁側のメリットは新人ながら旧来の事務所の看板と事務所スペース(場合によっては事務員の労力)を借りられるということであり、他方事務所側のメリットは、人手が必要な大きな仕事が来たらノキ弁に手数料の一部を払って手伝って貰える。事務所側には事件毎に対応すれば良いので、イソ弁の(多分高額の)固定給よりありがたいということがある。一面、派遣社員を受け入れ受給に応じて派遣社員を増減するのと似た面がある(良いか悪いかは別である)。

タク弁・ノキ弁の人たちの苦労はイソ弁になれた同期の人たちや我々とかの比ではなかろう。同情できる、すべきであると私は思っている。

司法試験合格者の大量増員を急激に行うからこういうことが起こる。先に述べた2回試験も我々の頃は落第者はいなかった(いても人数は一桁台の前半)。ところが司法試験の合格者を急増させた結果、落第者も急増した。年によっては100人を超える。さらには就職難である(タク弁・ノキ弁はその結果)。いわゆる「司法改革」の一環「裁判員制度」だけでなく「法曹人口の増加」も改革内容の一つだったのだが、現状を見るとこれで良いのか大いに疑問である。いつかもっと詳しく書きたい。