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福岡市弁護士甲能ホーム日記インデックス2005.11.12(土):「転落弁護士」

日記インデックス

2005.11.27(日)

弁護士である民主党の代議士逮捕

弁護士である民主党の代議士が、自分の法律事務所の元事務員が非弁護士活動をしていることについて知りながら、その元事務員が得た報酬を折半する等いわゆる名義貸しをしており、大阪地検特捜部が立件する見込みだとのことである。

非弁活動という聞き慣れない言葉が出てくるので、この欄で解説し、また感想を書きたい。

弁護士法は72条で「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」と定める。

この趣旨について、最高裁は次のとおり判示している。

「弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、広く法律事務を行うことをその職務とするものであって、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講ぜられているのであるが、世上には、このような資格もなく、なんらの規律にも服しない者が、自らの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とする例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正円滑な営みを妨げ、ひいては法律秩序を害することとなるので、同条は、かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられるのである。」

世上いわゆる事件屋とか示談屋など他人の紛争に不当に介入し、そこから法外な手数料を巻き上げる等の例が見られる。例えば、交通事故の被害者の代理人となり、暴力的な賠償金の取立をして更にその賠償金の半分を報酬として得る等の例である。この様な示談屋などの横行を許せば、紛争当事者の利益を損ねひいては法秩序全般の侵害を招くので、「基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命」とし「厳格な資格要件」「誠実適正な規律」に服する弁護士以外には、報酬を得て法律事務を行うことは許さない、とするものである。

ここまでは大変美しいというか崇高というか、弁護士が大変立派な職業だとされている結果ではあるのだが、これは弁護士の職域を守ろうとする規定ではないことを銘記しなければならないだろう。基本的人権の擁護と社会正義を実現すること即ち一般国民の利益・法的正義が守られることにこそ本来の目的があって、弁護士稼業の保全・独占はその手段に過ぎないのである。

この件で代議士は逮捕されると報道されているが、報道内容が事実なら、弁護士自ら弁護士法72条の基盤を掘り崩すようでは情けない限りで、しかも選良なのだから何をかいわんやである。


2005.11.12(土)

「転落弁護士」

今年度の司法試験の合格者数が1,464人と発表された(11月9日)。合格率3.71%、合格者の平均年齢は29.03歳だという。

我々の時代(20年近く前)は、合格者は500人前後、合格率は2%弱だった。合格者の平均年齢は28歳前後くらいだったと記憶する。27歳を割ることはなかったし、29歳を超えることもなかったと思う。それに比べれば、大分合格しやすくなったのは間違いない。

しかし、来年度からは法科大学院(いわゆるロースクール)卒業生を対象とした新司法試験が実施され、合格者数は3,000名になるそうである。そして、司法研修所の研修期間が1年にまで短縮されるということなので、2007年度の卒業時には一挙に3,000名の法律家が誕生する。多分そのうち裁判官・検察官に任官する数は合計で500名まで行かないだろうから残りの2,500名以上が弁護士になる計算である。更に司法書士の方々が出来る訴訟代理権(クライアントの依頼を受けて訴訟をし法廷に立てる権限)の幅は既にが広がっており、いずれ簡易裁判所判事と副検事に退官後の弁護士資格を与えるという話である(もう与えられてたっけ)。

現在の全国の弁護士数が平成17年4月現在で2万1千名余りだそうで、毎年この2,500名ペースで弁護士人口が増えて行けば数年で弁護士人口は倍増し、弁護士過剰時代は目の前ということができる。

更に量の問題だけでなく質の問題もある。

法科大学院という2〜3年間の学生生活を送らないと司法試験を受験できない合格できないという制度の建前からすると、極端に言えば、この大学院期間の生活費を賄えるお金持ちか奨学金を貰える乃至借金ができる人間か、どちらかしか法律家になれないことになっている。当然、前者は本々富裕な層の子弟で貧乏や社会的弱者の生活を経験したことがない分だけ視野や視点の限界が危惧されるし、後者は法律家として出発する時点から多額の借金を抱えている以上相当の収入を求めざるを得ないので、いずれにしても「基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とする」(弁護士法1条)法律家としての資質や志しの面で、私などは大丈夫かなぁと思ってしまう。毎年大量の法律家が排出されるにしても、法科大学院の教育よろしきを得ない限り、法曹の使命感を持った人間達という意味の質が伴うのかという点で、予断を許さない。

今でも東京では弁護士が余り気味で弁護士会費を払えない弁護士もいるし、最近読んだ「転落弁護士 私はこうして塀の中へ落ちた」(内山哲夫 講談社)によれば、事件屋に成り下がる若しくは事件屋の手先になる若手弁護士が増えて来ている、とのことである。

弁護士の不祥事が報道されることが余り珍しいことではなくなっている現状が、更に深刻化する危惧を私は感じている。