書評「手塚治虫 原画の秘密」で書き忘れたことがある。私は、手塚先生の著作権を侵害したことがあるのだ。
確か1983年だったと思うが、神戸市でユニバーシアード大会が開かれた。このときの大会マスコットが丹頂鶴で「ユニタン」という愛称となり、キャラクターデザインを手塚先生が担当された。
当時、神戸市職員だった私は兵庫区役所というところに配属になっており、区レベルのユニバーシアード盛り上げ行事を色々担当していた。そこで、正確な名称は忘れたが「ユニバーシアード歓迎区民大会」的なイベントを行うことになり、その大会のチラシというかパンフというか、そのデザインを私が任された。そこで当然、市の大会方針に従い手塚先生のキャラクターデザインをパンフに使用することになった。
手塚先生は、様々な「ユニタン」のポーズの他、ユニバーシアードの競技毎にテニスラケットを持った「ユニタン」とか泳ぐ「ユニタン」とか色々なパターンを描いておられるのだが、どうもどのイラストを使ってもそのパンフには納まりが悪いと私は感じた。そこで、私はユニタンの持つテニスラケットを消して、ユニバーシアード応援の旗に描き変えた。このときは手塚先生がお描きになるならきっとこんな旗だろうと自分なりに想像して描き込んだ。係長・課長の決裁も受け「甲能君、こんな才能があってんなぁ」等と言われて私は悦に入り、当日の会場では参加者に得々として配っていた。
ところが後日、大会委員会からクレームがついた。原画は改変して使用してはならない、でないと著作権の侵害になるというのである。法学部出身者としてはお恥ずかしい話だが、当時の私は著作権のことは頭になかった。結局、始末書を書いて一件落着となった。市役所職員という公務員が公務上やった行為で、当然これで金儲けなどをしている訳ではなかったので、大したお咎めにはならなかったのだろう。
そのときのパンフはどこかにある筈だが、今は所在がわからない。